賃上げを行う企業を総合評価方式の入札契約手続きで加点評価する措置の運用を巡り、国土交通省は「賃上げ実績の確認」の考え方を明確化した8日付の財務省通知への対応を地方整備局などに周知する事務連絡を同日送付した。財務省通知の内容に入札説明書への記載例など補足事項を追記。入札参加者に措置内容や運用方法が的確に伝わるよう、発注部局に適切な対応を求めている。
加点を受けるには賃金引き上げで従業員と合意したことを示す「表明書」の提出が求められる。賃上げを達成したかどうかの実績は事後的に確認する形を取るが、財務省の当初通知(2021年12月17日付)の規定では従業員の賃金実態を適切に反映できないケースがあると指摘されていた。
課題を踏まえ実績確認の考え方を明確化し、各企業の実情に応じ賃上げ実績として認める範囲を広げた。当初通知では評価項目を大企業で「1人当たりの平均受給額」、中小企業で「給与総額」に限定していたが、企業規模にかかわらず両方とも選択できるようにする。
さらに各企業の実情を踏まえ、継続雇用している従業員だけの基本給や所定内賃金で評価することも可能。実績確認に用いる書類に一時的な雇い入れによる労務費や役員報酬などが含まれていたり、一部の従業員の給与が含まれていなかったりする場合は、従業員の賃金実態を適切に反映する目的で控除や補完も認める。
実績確認のため提出を求める書類は「法人事業概況説明書」や「給与所得の源泉徴収票などの法定調書合計表」に限定せず、税理士や公認会計士など第三者による実績確認を明記した書面で代えることができると明確化する。
賃上げ表明は事業年度単位か暦年単位で選択可能だが、翌年度(または翌年)も表明する場合は前年度(または前年)と期間が重ならないよう入札参加者に注意を促す。賃上げ表明の期間と加点を受ける期間の不整合を防ぐためだ。法人税申告書の提出期限が延長された場合、実績確認に用いる書類の提出期限を延長できることなども追記した。
賃上げ実績として認めることにする具体例(入札説明書に記載)
各企業の実情を踏まえ、継続雇用している従業員だけの基本給や所定内賃金などで評価するケース
- ベテラン従業員が退職し、新卒採用で雇用を確保することで給与総額が減少する場合
- 定年退職者の再雇用などで給与水準が変わる場合
- 育児休暇や介護休暇の取得者がいる場合
- 計画的に超過勤務を減らしている場合(手当分を除いて評価可能)
- 災害対応で超過勤務手当の支給や一時雇用が必要な場合(手当分や一時雇用を除いて評価可能)
- 業績に応じて一時金や賞与を支給する場合(一時金や賞与を除いて評価)
従業員の賃金実態を適切に反映する目的で、実績確認に用いる書類の控除や補完を認めるケース
- 関係書類に一部の従業員の給与が含まれない場合は別途補完する
- 外注や派遣社員の一時的な雇い入れによる労務費を控除する
- 退職給付引当金繰入額など実際に従業員に支払われた給与でないものは控除する
- 役員報酬が含まれる場合は控除する
- 2022年4月以降の最初の事業年度開始時よりも前の22年度中に賃上げした場合、賃上げ実施時点から1年間の実績を評価する
(国交省事務連絡を基に作成)
日建連、全建 会員に周知へ
引き続き状況注視
国が賃上げ企業を総合評価方式の入札契約手続きで加点する制度の運用を見直したことに関連し、日本建設業連合会(日建連、宮本洋一会長)と全国建設業協会(全建、奥村太加典会長)が会員に周知するための事務連絡を出した。
賃上げ実績の評価方法の拡充を柱とする運用見直しでは、8日付で財務省が国土交通など関係省庁に通知。その内容を受け国交省が関係部局や地方整備局などに事務連絡している。
日建連は8日にホームページ(https://www.nikkenren.com/doboku/) で財務省通知と国交省事務連絡の掲載を会員に伝えた。全建は9日に都道府県建設業協会の専務理事や事務局長へ事務連絡。今後の運用状況を注視し提言や要望などを行う方針も示した。