政令新潟市に相応しい 「新都市交通システム」の整備を急げ
本誌が提唱している「新潟モノレール構想」に代表される新都市交通システムの整備について、県内財政界の関係者はどのような視線を注いでいるのだろうか。元国交省事務次官の佐藤信秋・参院議員をはじめ、NSGグループの池田弘代表、そして「新潟モノレール構想」のグランドデザインを描いた亀田郷地域センターの渡辺徹プロジェクトマネージャーの三氏を招いて、都市交通の在り方や新潟の進むべき道などについて語っていただいた。(司会・本誌 瀬戸田鎮郎)
2014年問題に立ち向かう
瀬戸田 最初に、いわゆる2014年問題について討論したいと思います。北陸新幹線の延伸によって新潟の“過疎化”が懸念されているようです。あまり良い話ではありませんが、まずは渡辺さんのほうから“過疎化”の要因についてお話をお願いします。
渡辺 私も、新潟が置かれている現実を知ったときには非常に大きなショックを受けました。ご承知のとおり、2014年に北陸新幹線が金沢まで開通し、その後さらには大阪まで延伸計画があります。
ですから、いずれは東海道と結ばれることにより、東海道沿線の人口4735万人と北陸地区の人口4085万人が鉄道網を介して循環交流して、「関東・関西・北陸大経済圏」が誕生するわけです。別の見方をすると、巨大な観光圏が創出するといってもいいかもしれません。
これは日本にとっては良いことですが、私たちの郷土・新潟にとってはどうかというと、鉄道網で見てみますと、新潟だけが“奥山の一軒家”のようになってしまうのです。
瀬戸田 上越新幹線の利用客減少はまず避けられない情勢ではないでしょうか。池田さんいかがですか。
池田 新潟が置かれている現状に、客観的データを積み上げていきますと、そういう推測も成り立ちます。しかし、それらを踏まえてしっかりとした対策を施すことにより、私は現在の交流人口を維持することができるし、もしくは増やせるのではないかと確信しています。
具体的にどうゆうことかというと、長岡から新潟までの沿線を中心に、「新潟に本社を構える会社」、つまり本社機能のある会社つくり、そこから雇用機会を広げていくのです。
新潟はいま、環日本海、ロシア、中国、遠くはシベリア・ランドブリッジも含めた交流拠点として大転換期を迎えていると思います。現状どんなデータを見ても、新潟市は10年、20年後に人口80万人を切ると推測されていますが、私に言わせればこうした悲観的な数字は何も対策をとらない場合の最悪のケースにすぎない、といった感じですね。
そうではなくて、100万人都市にするためにどうするかということをきちっとうたい、また海外からも優秀な人たちを誘致できれば、新潟は必ずや発展し、逆に首都圏から新潟へ人口移動が起きるのではないかと考えます。
瀬戸田 市場おこしということですか?
池田 そうですね、企業誘致、本社機能も含めて研究開発部門なども併設する形で、企業創造、つまり新潟に会社をつくっていくということです。
ナンバーワンへの復活
瀬戸田 2014年問題が懸念される一方、企業創造次第では不安を払拭できるとの見方も出ましたが、佐藤先生はいかがでしょうか。
佐藤 私は、新潟ナンバーワンと申しますか、トップランナーを目指さなければならないと思うのです。正確にいうと、ナンバーワンにもう一度戻るべきだと思いますね。どういうことかと申しますと、明治時代には新潟が日本で最も人口が多かったのです。ひいては税金にしても、新潟が一番たくさん払っていたのです。
これに対して、東京も大阪も税金をほとんど払っていないのです。なぜかというと、当時の税金は主として地租で、地面に対して課税していましたからね。新潟のほかにも島根、鳥取など日本海側の殻倉庫地帯からたくさん税金を取って、国が何をしたかというと殖産興業や鉄道網の設備ですよ。
つまり近代明治の日本を育てたのは新潟なのです。人口も一番、経済も一番だったのですから。
渡辺 新潟が日本経済を支えていたわけですね。それ以前に佐渡金山もありますしね。
佐藤 新潟はまさにトップランナーだったのです。池田さんも著書でお書きのように、東京に出ている地方出身者で最も多いのはおそらく新潟県民でしょう。新潟は知能、労働力、そしてカネを東京に送り込んで日本を育て上げたのです。第四銀行も四番目の国立銀行でした。
池田 昭和初期には、東京大学の合格者数は新潟がトップでしたしね。
佐藤 東京の銭湯経営者はほとんどが新潟出身者です。いずれにしても財政と人材を新潟が供給したのです。
池田 資源もそうですしね。
佐藤 そのとおりです。だからナンバーワンに戻ればいいのです。そして実のところ、新潟は大県だということを指摘したいですね。新潟は、島根と鳥取と山梨を一緒にしたいくらいの人口と面積を誇るのです。
だから極端な話、これはあくまでもひとつの選択肢ですけど、道州制論議でも、新潟は関東や北陸と一緒にならなくても歩んでいけるくらいの潜在能力を秘めていると私は思います。
池田 独立という選択肢ですね、私は大賛成ですよ。会津や長野など近隣地域も取り組んで「新潟州」をつくる、大変素晴らしいことですね。
佐藤 そのためにはどうするか―。雇用と教育の“新潟モデル”をつくるのです。典型的なものとしては医学部が挙げられますが、「ふるさと学部」というものをつくるのです。
これは何かと申しますと、たとえば新潟大学ならば医学部の定員とは別に、「卒業後は新潟でずっと働き続けます」という若者たちの入学枠を20人、30人分つくって、別の試験を行うというものです。
実現性に首をひねる人もいるかもしれませんが、医師になるためには最終的に国家試験に合格しなければならないわけですから、入学時に多少の学力差があったとしても、大方の学生が6年間教育を通じて一定レベル以上にまで到達するわけですよ。
そもそも自治医大が失敗したのは、結局のところ自分の故郷とはまったく関係のない大学に入学するものだから、親が医者で後継ぎになるために地元に帰ってしまうといったケースが多いからですよ。実際のところ、残念ながら新潟県内の人口当たりの医師の数は全国43位と非常に少ないです。
一方、こうした取組みを雇用にどう結び付けるか―。私は常日頃から農林漁業、建設、観光の3つを基礎産業だと言っているのですが、仕事をしたら利益が出て税金を払えるというモデルの構想をするべきです。そうやって基礎産業を雇用の面から捉えて育てることにより、従業員が安心して働ける環境が整うものと考えます。
郷土新潟を輝かせるために
瀬戸田 さて、新潟の将来像を描くのと同時に、それに相応しい新たな都市交通についても議論していきましょう。
池田 都市交通インフラを整備するにしても、利用する人たちがいなければ大赤字で大変なことになります。やはりインフラ整備と並行して、経済を発展させるために雇用拡大施策を進めていくべきです。
極端な話、税金ですべて整備してからやるのではなくて、金融クラッシュはしていますが、長期資金を投入して税金である程度延払いするといったインフラのつくり方もあると思います。いずれにしても明確に施策を打ち出して、だからこうしたインフラが必要なのだという仕組みをつくる必要があります。
国も地方も大変な経済情勢で、まして巨額の借金を抱えているので、もはやおんぶに抱っこというわけにはいきません。ですから今後は、発展の見込める地域にインフラを持ってくるという考え方が重要になると思います。であれば国も税金を投入する理由が通りますから。
そのためにも地域を発展させる必要があります。地域の発展とインフラ整備のどちらを先行させるかといった論議もありますが、私は地域を発展させながらインフラ整備していくべきだと考えます。もしくは自分たちで先にインフラをつくって、発展させながら延払いしていく仕組みも有効でしょうね。
いずれにしても、地域発展の青写真をまず描いて、そのうえでインフラ投資を考えるべきだと思います。
瀬戸田 モノレールがいいのか、LRT(軽量軌道交通)がいいのかは別にしても、政令新潟市に新たな都市交通システムが不可欠なのは異論のないところでしょう。渡辺さんはモノレール建設の推進を各種会合で訴えていますが、そのあたりの考え方をお聞かせください。
渡辺 その前に、お二人のお話をお聞きしていて、非常に元気が出てきますね、さすがにパワーがありますよ。
新潟はかつて、いろんな分野でナンバーワンだったと、これは大変嬉しい話ですね。また池田さんからは北東アジアとの可能性について、まったくそのとおりだと思います。私も亀田郷土地改良地区の佐野藤三郎・元理事長から、「北東アジア方面に目を向けていかなければならない」と常々話を聞かされておりましたし、そのうえで雇用を拡大していかなければなりませんね。
これらの事情はこれからの新潟にとって基礎であり、土台です。いくら立派な夢を語っても、家の土台がしっかりとしていなければ何にもなりませんからね。
それからやはり、これからまちをつくるのは若者だということです。若者というのは感性で行動しますので、土台をつくった後には若者の熱気を吹き込んだらいかがでしょうか。そのためにはワクワクさせて、彼らを引き寄せる必要がありますね。
こんなまちに住みたいといった感覚的なものも必要ですし、さらに掘り下げていくと、なるほど雇用もあって、歴史を調べればかつてナンバーワンだったと。これで新潟は一層パワーアップしますね。
新潟をそういうまちにするためのきっかけづくりとして、私は『水の都』だということをもっと強調していくべきだと思います。新潟には日本一の夕日がありますし、日本一の大河があり、日本海も素晴らしい、さらに萬代橋もあります。これらをどうやって生かすかを考えたとき、私はやはり“高さ”だと思いますね。新潟の風景を高いところから見てもらって、初めてその良さが生かせるのではないかと。
目下、新潟空港とJR新潟駅を結ぼうということで、いろんな手段やルート案が出ています。でも、どうせやるなら私はやはり、わが郷土新潟が一番輝けるルートを選択し、しかもその風景を上から見せるべきだと思います。
それによって新潟の若者に“私たちはこんなに凄いまちに住んでいるんだぞ”とアピールしたいですね。
「夢の大構想」で世界都市に
瀬戸田 池田さんにお聞きしますが、アルビレックス新潟の人気により、ビッグスワンの集客は年間100万人前後に上っています。しかし現状は県外客や海外客が素通りしている印象です。いかにももったいない話で、新たな公共交通システムの整備によって観光振興に結び付けていきたいところですね。
池田 素通りしていくお客さんが目立つ一方で、一部の人たちは新潟に泊まってくれているのも事実です。ビックスワンで試合がある日は、ホテルもそれなりに混雑していると聞いています。ただし、長期滞在が少ないのは間違いありませんね。
したがってモノレールなり、LRTなりが整備されて、サポート用のツアーなどを企画すれば連泊してくれるのではないでしょうか。
瀬戸田 渡辺さんはいかがですか。
渡辺 ビッグスワンの周辺は田んぼになっていますから、早期に交流施設を誘致したいですね。そのため私ども亀田郷地域センターでは、鳥屋野潟南部開発計画の具体的な構想を練っているところです。
現状、県外客や海外からのお客さんは素通りしている人たちが大方なので、ビッグスワン前にモノレールの駅をつくり、交流施設に滞留させるとか、あるいはモノレールを使って市内全域に誘客することにより、経済効果がまんべんなく高まると思います。
瀬戸田 渡辺さんの目から見て、モノレールがLRTよりも優れている点は?
渡辺 モノレールの最大の長所は定時性です。決まった時刻に発車し、所定の乗車時間で目的地に確実に到着できる点が見逃せません。これに対して一般道にレールを敷設するLRTは、専用コースをつくったとしても降雪や渋滞の影響をモロに受けてしまうのではないでしょうか。
瀬戸田 具体的に描いている都市開発構想があるそうですね。
渡辺 ええ、「夢の大構想」とでもいうべき構想があります。都市計画において、交通政策と拠点施設はセットで検討すべきものです。モノレールを通すだけでは、採算面で苦しくなる。また、拠点施設も交通を無視して建設地を決めれば、アクセスが不便になり、渋滞を招いたりもする。交通政策と拠点施設を組み合わせて相乗効果を狙うことこそ、都市計画の基本です。
具体的なプランとしては、まず拠点施設の目玉として10万平方メートル以上の国際展示場を誘致する。これは1回の展示期間で数百億円の経済効果があり、宿泊者も数万人規模になる。そうなればホテルが足りない。そこで客室数が500から1000室くらいの、廃船になった豪華客船をロンドン市場から買い求めて、岸壁に固定してホテルにする。そして新潟の新鮮な食材や地酒を提供する。大量に消費され、農家も酒蔵も潤います。
でも、観光客がどっと押し寄せれば新潟の道路では大渋滞が発生する。だからモノレールを通すのです。上から『水の都』を強制的に見せてインパクトのある第一印象を観光客の脳に焼き付ける。LRTやバスでは必ず渋滞に巻き込まれますし、せっかくの『水の都』をPRできない。
街では昼も夜も大繁盛です。物販店や飲食店、新潟美人のいるクラブ、柳都などの新潟文化も栄える。今はガラガラのタクシーもてんてこ舞い。みんなが幸せになれる。
これがうまくいけば、新潟は必ず国際都市として飛躍できます。新潟の農業も発展する。そう確信しています。
行政当局は早期調査を
瀬戸田 予算的に見ると、モノレールとLRTはいかがですか?
渡辺 モノレールのほうが高いです。モノレールは構造物の建設を伴いますから。これに対してLRTは道路に線路を引くだけですから、モノレールほどではありません。
ただしLRTの難点としては、数百メートルごとに駅をつくる必要があります。しかも道路の中心に駅を設置するのです。富山の例を見ましても、線路2本とホームの整備によって、従前の道路の3車線分が潰れています。
ご案内のとおり、新潟市内は道幅が狭いですから、3車線を潰してしまって経済効果が高まるのか、あるいは逆効果になってしまうのか、懸念されるところです。
瀬戸田 確かにLRTの最大の欠点として、交通渋滞を引き起こす点がいわれていますね。
渡辺 もともと道路が狭い都市向けに開発されたのがモノレールです。まさに新潟市の中心部にはうってつけなのです。
池田 私はLRTであってもITによって信号をコントロールすることで、交通渋滞を避けられると聞いています。ただし、このあたりは専門的な分野ですから、素人には判断がつきかねます。こうした技術論については、県や市など関係当局の迅速な調査に期待したいところです。
その調査結果を見て、モノレールにするのか、LRTにするのか然るべき判断を下したらいいと思います。いずれにしても新潟市が政令市に移行した以上、都市内交通は絶対に必要です。
本日は佐藤先生もいらっしゃっていますので、客観的に両者の効率性や技術面の問題を検討していただくためにも、是非とも早期に調査費をつけていただくようお願いいたします。
佐藤 思い起こせば今から5、6年前に、高速道路は無駄だという論議が巻き起こりました。採算が取れないから意味がない、という理屈です。実は公共交通機関の整備にあたっては2つの物差しがあって、ひとつは投資したらどこに、どれくらい経済効果が広がるかという観点です。
もうひとつは採算の問題です。仮に投資額に比べて効用が2倍、3倍あったとしても、効用を全部料金で取り上げたら採算が取れなくなったり、あるいはお客さんが使わなくなってしまったりします。
このように投資による経済効果と、採算面の両方を綿密に調査する必要がありますから、池田さんの調査費計上の提案は実に的を射ていると思いますね。
瀬戸田 極端な話、経済効果が極めて大きければ、運行事業自体は赤字でもいいのではないですか。
池田 そのとおりですね、仮に本体の事業が赤字でも税金を注ぎ込む価値は十分にありますよ。最初から単独で採算の帳尻を合わせようなどと考えたら、公共交通機関など整備できません。ただし、いざ公共交通を整備したときにどれだけの経済波及効果があるのか、それも含めた調査のための予算を付けていただきたい、行政当局にはすぐに取り掛かってほしいですね。
瀬戸田 討論の末に、ひとつの方向性が導き出されたようですね。行政当局に早期の調査求めると。本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。