国土交通省は、直轄土木工事で適用する積算基準の一般管理費等率と低入札調査基準価格の一般管理費等の乗率を2022年度から引き上げる。従業員の給与などに相当する一般管理費など建設企業の継続に必要な諸経費を発注段階から見直すことで、公共工事の円滑な施工確保を図る。従業員の処遇改善や働き方改革に取り組む建設企業にとっては総合評価落札方式での賃上げ加点措置と合わせて追い風となる。
直轄土木工事では、従業員の給与手当など会社の本支店で必要となる経要を一般管理費等として工事原価に一定比率をかけて積算する。工事原価が「500万円以下」「500万円超30億円以下」「30億円超」の3区分で設定しており、500万円超30億円以下の中間層の区分は金額に応じて変動する仕組みとなっている。
今回の改定で現行の設定範囲「7.47%(30億円超)−22.72%(500万円以下)」を「9.74%−23.57%」に見直す。直轄工事費1億円の河川工事を例にすると、この一般管理費等率の改定によって、予定価格は約1.4%(210万円増)の上昇なると試算する。
低入札調査基準価格の計算式は、4月1日以降に入札公告を行う工事を対象に現行の「一般管理費等×0.55」を「一般管理費等×0.68」に引き上げる。最新の諸経費動向調査の結果を基に、企業として継続するため必要な経費を反映した。
同省の廣瀬昌由官房技術審議官は「特に規模の小さいエ事での低入基準が上がる」と改定を説明した。ダンピング(過度な安値受注)対策としての機能を持つ低入札調査基準価格でも一般管理費等の部分を引き上げることで、底上げの効果が期待できる。
低入基準改定を通知 自治体も拡大見込み
国交省は24日付で、都道府県などの地方自治体に対して、低入札調査基準価格の計算式を改定したことを通知した。追って中央公共工事契約制度運用連絡協議会(中央公契連)の算定モデルの改定を予定しているとし、自治体でも中央公契連モデルを参考に調査基準価格や最低制限価格の算定水準に関して必要な見直しを求めた。
同省では自治体のダンピング対策を促進するため、最新の中央公契連モデルを前提とした各自治体での設定状況を毎年度、調査・公表している。
改善に向けた働き掛けを通じて今後、自治体の発注工事でも低入札調査基準価格や最低制限価格の引き上げの拡大が見込まれる。
土木積算基準と低入札調査基準価格改定で各団体のコメント
国土交通省が24日に公表した一般管理費の引き上げを伴う土木工事積算基準の改定と低入札調査基準価格の改定に関し、建設業団体のトップは謝意を表すとともに、従業員の賃上げに改めて意欲を見せている。
さらなる賃上げへ
日本建設業連合会 宮本洋一会長
今般、日建連が強く要望していた一般管理費率と低入札調査基準価格を引き上げていただき、ご尽力いただいた国土交通省をはじめとする関係各位に感謝申し上げます。
先般の公共工事設計労務単価の引き上げに加えて、今回の措置は、適正利潤の確保につながるものであり、中長期的な視点に立った担い手確保の後押しになると受け止めています。
日建連としても、今後も公共工事の円滑な施工に万全を期すとともに、引き続き「労務費見積り尊重宣言」に基づき、適切な労務賃金の支払いを進めるなど、技能者のさらなる賃上げにつなげる努力を続けてまいります。
業界全体の賃上げ後押し
全国建設業協会 奥村太加典会長
本日、国土交通省より土木工事積算基準および低入札価格調査基準の改定が発表され、それぞれ一般管理費にかかる計算式等が引き上げられました。
18日の公共工事設計労務単価の引き上げに続き、今回の引き上げを行っていただいたことは、予定価格への反映、ダンピング対策等を通じ、建設技能者だけではなく、建設業全体の賃上げに向けた取り組みへの大きな後押しになるものと考えており、改定にご尽力をいただきました国交省等の関係者の皆さまに、深く感謝を申し上げます。
全建としましても、引き続き、会員企業の従業員の賃上げが促進されるよう、取り組んでまいります。
就労環境の改善へ
全国中小建設業協会 土志田領司会長
今回改定された土木工事積算基準の一般管理費率が引き上げられたことは、全中建としても今まで活動し要望してきた結果が認められたもので感謝申し上げます。
今後とも経済情勢の変化および市場価格を的確に反映した適正な予定価格となることを希望し、働き方改革を一層推進する上で、従業員の処遇改善等に取り組み、適正な利益が得られますようご理解とご協力をお願いします。
全中建としても地域の守り手として、地域の安全・安心の確保のため、社会基盤施設の整備・保全を引き続き中小建設業としての役割を果たすとともに、建設業に携わる者の就労環境の改善に努めてまいります。
新4Kへ踏み出す
全国建認業協同組合連合会 青柳剛会長
設計労務単価の引き上げと併せて「低入札調査基準価格の改定」は中小建設業にとっても明るい話題といえます。一般管理費率は2013年の0.30から0.55に改訂され、9年ぶりの改定です。
昨年11月24日、全国建設業協同組合連合会で掲げた「3つの提言」の1つとして「一般管理費率の引き上げ」に向けた要望活動を展開してきたところであります。2000万円の工事で50万円前後の引き上げとなります。19年90%から92%に引き上げられた調査基準価格の効果がおおむねすべての工事に適用されることになります。
今回の改定を契機に「建設キャリアアップシステム」と一体になった建設業の新3Kから新4Kに向けて大きく踏み出すことが期待されます。