2022/2/3(木)
新聞記事
令和4年2月3日 建設工業新聞
建設工業新聞

≪スコープ≫
総合評価方式/賃上げ企業の加点
自民品確議連・佐藤信秋幹事長に聞く
継続雇用者の基本給アップ基準に

政府が掲げる「成長と分配の好循環」の実現に向け、総合評価方式を適用する国の入札契約手続き(4月1日以降契約案件)で賃上げ企業を加点評価する新たな施策が波紋を呼んでいる。賃上げ実績をボーナスや超過勤務手当など含む給与総額や人件費総額で見るため、従業員1人当たりの賃金水準が評価しにくい仕組みになるためだ。建設業界にとって最善の運用方法とは――。自民党「公共工事品質確保に関する議員連盟」(会長・根本匠衆院議員)で幹事長を務める佐藤信秋参院議員に聞いた。

――国が2022年度に適用する公共工事設計労務単価や設計業務委託等技術者単価を決める作業が大詰めを迎えている。

「地方の建設業者は公共事業、その中でも土木事業を中心に従事している業者がほとんどだ。現在、来年度に適用する設計労務単価や技術者単価、積算単価を構成する諸経費率、低入札調査基準の設定範囲などの改善を財務、国土交通両省に申し入れている。引き続き国土強靱化対策の推進などによって回復してきた公共事業関係費を適正に分配し、技能者が週休2日を取得しながら十分な賃金水準を確保できるようにすることが大事だ」

――公共調達で賃上げ企業を優遇する新たな施策には業界から戸惑いの声が相次いでいる。

「賃上げという趣旨自体は賛成だ。ただ現在の財務省通達(21年12月17日)の内容のまま動きだすと、さまざまな問題が顕在化してくるだろう。現通達では総合評価方式の入札契約手続きで加点評価基準となる賃上げ実績について、大企業を給与総額(従業員1人当たりの年間給与が前年度比3%以上)、中小企業を総人件費(1・5%以上)で見ることになる。ボーナスや超勤手当に加え、人件費総額には役員報酬も含まれる。つまり現通達の制度設計上、さまざまな抜け道が考えられる」

――具体的にはどのような懸念が想定されるか。

「総人件費を増やそうとすれば単純に従業員数だけを増やしていけばよい。例えば中小企業は従業員30人の企業が毎年0・5人ずつ増員していった場合、すぐに1・5%以上の総人件費アップが実現できる。一方基本給で、平均で1人当たりの給与水準1・5%増やしていくことを原則にすれば、全体的な賃金の向上につながるはずだ。そのため品確議連の幹事長として、財務、国交両省の担当者には『継続雇用者の基本給アップをベースにして詳細を詰めるべきだ』との考えを伝えている」

――総合評価方式の加点や減点の幅が大きいことを指摘する声も多い。

「財務省の通達を受けて国交省がまとめた実施要領によると、賃上げ実施を表明した企業には3点が加点され、逆に言えば、そうでない企業は実質的に3点のマイナスとなる。賃上げ表明企業が実現できなかった場合は4点を減点するなど、建設業の経営に大きな混乱を招く恐れがある。皆でより良い制度としてスタートするためにも、現在の通達内容はできる限り改善していきたい」

――議連として当面の活動方針は。

「今回の賃上げ施策を実行する為には、財務、国交と大至急調整する。また、本格的にスタートすればさまざまな課題が浮き彫りになってくるだろう。議連としては半年後の秋ごろまでにフォローアップし、課題点の改善に努める。最終的には協力会社や下請で働く技能者の賃上げに導き、将来にわたる担い手確保につなげていくことが大事になる。まずは元請の賃上げを後押しし、こうした取り組みと連動するような元下契約のさらなる適正化など個別の施策にも取り組んでいくべきだろう」。

賃上げにつながる環境整備の推進を
総会で意見相次ぐ

1月18日に東京都内で開かれた自民党の「公共工事品質確保に関する議員連盟」(会長・根本匠衆院議員)総会。建設業従事者の賃金引き上げが業界全体に波及していくような方策を求める声が相次いだ。

根本会長は総合評価方式で賃上げ企業を加点評価する新たな施策について「効果や影響のきめ細かなシミュレーションが必要」と指摘。さらに業界全体の賃上げにつながる環境整備を推し進めていくべきだとして、公共工事設計労務単価や設計業務委託等技術者単価、低入札価格調査基準の見直しも課題に挙げた。出席した議員からも賃上げの原資として予定価格の上昇を求める声が続出した。

日本建設業連合会(日建連、宮本洋一会長)や全国建設業協会(全建、奥村太加典会長)など業界関係者は、労務単価の引き上げによる技能者の処遇改善を要望。日建連は民間工事も含むダンピング対策の強化を求め、全建は低入札価格調査基準・最低制限価格両制度の設定範囲上限枠(予定価格の92%)や計算式に用いる現場管理費(算入率0.90)と一般管理費(0.55)の算入率引き上げも訴えた。