国土行政に造詣の深い佐藤信秋自民党参議院議員は、「年間100万戸程度は、住宅を建て替えていかないと全体として住宅の水準が劣化する」と警鐘を鳴らす。その上で、「今後10年先、20年先を見据えた住宅政策のため鳥瞰図をしっかり描いていく必要がある」とした。
──最近の住宅事情へのご認識を
佐藤 以前から申し上げているように、かつてECのレポートでウサギ小屋≠ニ揶揄された日本の住宅だが、質的な面多少は改善されたが、大きくは変わっていないとは思っています。それは、ライフステージに応じて国民が満足できるような住宅の住み方が、依然として提案できていないからではないでしょうか。すでに、総世帯数を超える住宅ストックがあり、830万戸の空き家数がある現状からも、年間100万戸程度は建て替えして行かないと全体として住宅の水準が劣化する。全体のストック量からいえば実は足りないのだが、80万戸から90万戸というそこにも届いてない現状では、まずは100万戸程度を確保して市場整備していく。同時に、中古住宅の市場も整備していく必要があると思います。
もう一つは、一定の築年数が経過した住宅の居住者には、税制や誘導措置を使って、より良質な住宅に住み替えていただく。特に地方創生という観点で、二地域居住でもIターン・Uターンでもいいが、地方の質のいい満足できる住宅に住む。それを、地方創生のキーポイントにするという住宅政策の世界にしていく必要があると思ってます。そういう意味では、住宅が成長産業になっていく要因はたくさんある。地方創生で、日本の国力が上がっていく源になるでしょう。この1年や2年の短期的な話ではなく、質量ともに改善していかねればならない。鳥瞰図をしっかり描いて15年先や20年先を見据えた住宅政策が必要です。最近ますますそういう思いを強めているところです。
総住宅ストック数が総世帯数を上回っているから新築はいらない、という考えはとんでもない誤解だと思います。質的な改善とライフステージに応じた住み方を提案して根付かせなければならない。特に、地方創生が大事なキーポイント。東京をはじめ大都市圏の住宅政策に取り組んでいくことも必要ですが、しっかりしたビジョンをもって、地方創生という見方で地方を盛り上げていくということが大事だろうと思います。
──人口減少の中でコンパクトシティ推進の動きが強まっています
佐藤 コンパクトシティのについては、全体としては推進すべきという考えですが、地方によって違いがあってもいいという思いはあります。現状の地方の中心地に、ただ周辺から人を集めるというのでは、それぞれの地方にある文化が廃れてしまうことにもなりかねません。都市部だけでなく島嶼部や中山間地域にも、それぞれ築き上げてきた文化があるのです。それぞれの実情に応じたコンパクトシティのあり方があるべきで、この先10年15年をにらみ、地方自治体の首長さんと行政、われわれがともに知恵を絞って、コンパクトシティという概念を生かしていかねばならないと思います。
山林を守る、離島を守る、海岸を守る。守り手≠ニ考えればわかりやすいかもしれませんね。ただ、みんなが中心部に集まればすむという問題ではないのです。まちづくり、住まいづくりの政策にも通じる問題でもありますが、そういう地域に十分な福祉・医療が受けられるようにする。そこに目配りをしながら、地域の実情に応じたコンパクトシティを実現することを考えていくことが、重要ではないでしょうか。
──国土強靱化計画について
佐藤 強靱化の考え方は、今の地方創生やコンパクトシティの流れと軌を一にしていると思っています。国土を強靱化することは、いざという時に孤立集落を出さないということです。そのためには、災害時というだけでなくコミュニティを維持する上で、一定程度の集積のあるところには生産活動が維持できるようにしておく必要があります。一方で、豪雪地域小規模な集落で高齢化も進み冬の間は林業・農業ができなければ、冬の間はまとまって市街地に移住し、活動が再開できる春の季節になれば戻るか通うという選択もあるでしょう。二地域居住的な面もあるが、ますますこれから弾力的な住み方暮らし方が必要になると思っています。
中山間地域に人が居住・生産しなくなったら、そこは荒れ放題になる。強靱化というのは、そういう意味で都市部の問題というだけではなく、周辺エリアの住民に国土管理を頼っているわけです。中山間地域であれば150平方メートルの住まいに住んでいたのに、中心部に近いところに移り25平方メートル30平方メートルで我慢しろとはいえない。強くしなやかな国土にしていくためにも、住宅政策、居住政策、まちづくりのあり方を中長期的に考え、それに合わせて強靱化を図るべきだろうと思います。
──地方に人口を呼び込む方法は
佐藤 東京を中心とした大都市圏は、人口が緻密で通勤時間も長く、渋滞や混雑の中で劣悪な環境下にはあることを示すとともに、地方の恵まれた住宅や周辺環境であることをアピールすることではないでしょうか。かつて「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」という標語がありましたが、約38万平方キロという国土は狭いようで意外に広いのです。人口が減ってきて、かつて2位だったGDPも中国に抜かれ3位になった。だからこそ、あれもしない、これもできないと縮こまるのではなく、生産性を上げ国際競争力を強めるための努力をして、国土をもっと有効に使う方法を考えるべきなのです。