国土交通、総務両省は9日、適正な積算に基づく設計書金額の一部を控除する「歩切り」の根絶に向け、すべての地方公共団体を対象とする実態調査に着手した。歩切りが、改正公共工事品質確保促進法(品確法)に反する違法行為に当たることを明確にうたい、その具体例も示した上で、予定価格の設定に権限と責任を持つ首長や部局長らの判断を踏まえた回答を求める。調査では歩切りの目的や方法、根拠規定などを把握する。具体的な改善時期も問う。回答内容によっては個別に事情聴取するほか、頑なに歩切りを継続している場合などは、発注者名の公表に踏み切る。
9日付で都道府県・政令市に調査票を送付した。都道府県には管内市区町村への回答依頼も要請。2015年1月1日現在を基準日とし、同30日までに回答を求める。
実態調査に当たっては、歩切りの違法性や具体例を記したリーフレットを作成し、建設業103団体にも参考送付した。行政の入札契約担当部局や許可部局、業界団体・会員企業だけでなく、地方議会にも周知し、関係者間の共通理解につなげる。
原則として、市場の実勢を的確に反映した積算に基づく、通常妥当な工事費用「設計書金額」と、契約担当者らが競争入札のために定める「予定価格」はイコールでなければならない。しかし、長年の慣例などにより、設計書金額を一定程度減額して予定価格とする行為が一部自治体には根付いている。
調査では、設計書金額と予定価格が同額になっているかどうかを始め、歩切りを行っている場合には、▽慣例▽財政健全化や公共事業費の削減▽一定の公共事業費の中でより多くの工事を行う▽追加工事が発生した場合に備えて予算の一部を留保することで、補正予算にかかる議会手続きを経ずに変更契約を円滑に行う――など、その目的を聞く。
予定価格の漏えいを防ぐため、システムで無作為に発生させたランダム係数を掛けている場合や、事務の効率化を目的に端数を切り下げているケースについては、合理的な理由があり、極めて少額にとどまるのであれば、歩切りには該当しないとの見解だ。
「極めて少額」を定義することは難しいが、調査の中では、具体的な減額率や差引額、ランダム係数や端数処理の範囲も回答してもらう。また、財務規則や事務取扱要領などに、一定率を掛けて予定価格を決定すると書き込み、事実上ルール化している自治体もあることから、そのような根拠規定の有無も問う。歩切りを行っている自治体には、速やかな改善を要請。見直しの具体的な内容や時期を明記してもらう。
このほか、使用している積算基準や工事請負契約に議会の議決が必要になる予定価格の額、議決を経ずに契約金額を変更できる範囲に関する情報も集める。
ことしの通常国会で、衆参両院とも全会一致で可決・成立した改正品確法は、適正な積算による予定価格の設定を初めて法律上に位置付けた。これを根拠とし、歩切りの違法性を明確にした。
歩切りを行って予定価格を定めた案件の入札辞退者にペナルティーを科すなど、不当な価格内での入札を実質的に強いるような行為は、優越的地位の濫用を禁じた建設業法第19条の3に違反する恐れもある。この場合、業者の規制に主眼を置く業法には珍しく、業者を守る観点から、許可行政庁が当該発注者に勧告できるという規定もある。