「アメリカでは、落札価格が積算よりも高くなることもある。日本の入札制度の構造を変える必要がある。公共工事を通じて地域社会に貢献し、素晴らしい出来形の社会ストックを提供し続けている建設業が、さらに利益を上げられる入札制度にしていかなければなりません」――こう話すのは、参議院議員全国比例区で今夏の第23回通常選挙で再選を果たした、佐藤信秋議員。これまで、建設業が利益を出せるような入札制度の改革に取り組んできた佐藤議員は、本紙のインタビューに対して、建設産業界からの視点に立ち、次のようにこたえた。
――2期目を迎えた現在のお気持ち・意気込みは。
「全国の皆様の支援、特に建設産業界の皆様に大変な感謝を申し上げます。私自身何よりもやりたいことは、災害に強い国土をつくる、この一点に集約されます。私は約50年前に新潟で地震を体験し、橋梁の落橋、県営アパートの崩壊、地域の浸水などを目の当たりにしました。この被災体験から大学で土木工学を専攻しまして、国のために役立とうと思い、建設省に入省しました」
――国土づくり、災害から地域の人々を守っているのは建設業です。
「緊急時に自衛隊や警察が出動しますが、全国津々浦々にいらっしゃる約500万人の建設業の方々がそれぞれの地域で、不眠不休で活躍してくださいます。宮崎の口蹄疫流行のときに、深い穴を掘って協力してくれたのは、普段重機を扱っている建設業でした。阪神・淡路や、東日本大震災などでも危険を顧みない活動をされました」
――来春の消費税の引き上げが社会全般に与える影響、特に住宅投資への影響は。
「駆け込みで建築やリフォームしなくてもいいように、還付金やローン減税を使えば、住宅が購入しやすくなるようにしました。制度化に当たっては、必要に応じて、さらにきめ細かなものとしていきます」
――2020年東京オリンピックが決定しました。地方への波及効果はあるのでしょうか。
「この決定は、みんなの気持ちを明るくさせました。全国的にメリットがあり、日本が世界に向かって羽ばたけるチャンスです。地方の建設業は、7年後だけでなく、これを契機にもっと未来を見据えて行きたいですね。道路標識の表示国際化など、地域に必要なものをしっかりやらねばなりません」
――東日本大震災からの復興を一段と加速しなければなりません。
「そのためにも、一つ一つ課題を解決することが大事です。土地利用一つをとっても、地積や所有権などたくさんの人が絡んでいます。産業をどう再興するか、雇用の再稼働、住宅の再建など、どれも簡単なものではありません。地方の財政負担を軽くし、市町村の思いに寄り添って、復興計画を実現させます」
――自民党は、野党だった災害発生時から、復旧の地方負担をゼロにしろと主張していました。
「復興予算3兆1000億円のうち、7000億円が地方負担ですが、被災地が負担することが果たしてできるでしょうか、あの惨状ではとても無理です。財政負担は、国が行い、市町村は住民と向き合い、きめ細かな対策が講じられるようにしなければなりません」
――ご自身が何度も被災地に足を運んだそうですが。
「震災後1年間で40回、2年半に60回程度現地入りしました。被災者の声を聞き、それをもとに政策を改正するのが国会議員の使命です」
――地震大国日本の国土強じん化が望まれます。
「そのための基本法の作成に携わっています。先ほども申しましたが、災害に強い国づくりは、私の昔からの願いです。それと、強くしなやかな、代替性を持った国づくりが必要です。東京で何かがあった場合の補完拠点づくりです。国会やさまざまな省庁、道路などインフラの副軸を整備しておかなければなりません」
――予想されるものだけでも、首都直下型や、東海・南海などの連動型巨大地震があります。
「それらの大災害が発生したときに、どこから救援やボランティアが入るのか、道路の縦横軸が必要です。港湾が機能しなければ復旧・復興がありません。建設業が常日ごろから、地域に根差していなければ、いざというときに活躍ができません。建設業者自らが被災者でありながらも復旧に駆け付けたのが、今回の大震災で多く見られました」
――行政の力だけでは有事の対応は難しい。
「復旧・復興には、民間の活力こそが必要です。東京でも情報が途絶えて、大変混乱しました。非常用のエネルギー確保、情報基盤の整備など、民間投資こそベースになるものです。住民が安全に避難できるよう、多重防御を普段から皆で一緒に考えることです」
――工事の品質確保が大事な問題です。
「考え方として、これまでの安ければいい、というのでは粗悪工事が横行します。適正な対価を支払わなければいけません。二つとつくれないものを建設業の技術者がつくる、若者が生きがいを持って働けるために、賃金を相応に上げていかなければ、魅力ある業界にはなりません」
――そのために、さまざまな取り組みをされておられます。
「この4月に設計労務単価を上げさせました。建設業すべての会社に、社会保険への加入を義務付けるのならば、当然の措置です。民主党の時代には上げられませんでした。今回、ようやく今のままでは、建設業がみんな倒れてしまうということが分かってきました。しかし、まだ不足しているので、着実に戻さなければいけません」
――酷暑・極寒の屋外作業など厳しい労働条件が若者の入職を阻んでいます。
「厳しい屋外労働の割に賃金は低いです。夏は熱中症、冬は杭も打てないくらい寒い。労務単価は、もっと上げていかなければなりません」
――市町村を中心とした低入札価格の設定に関して、多くの問題があります。
「低入札調査の基準はこれまで、4回にわたって上げさせました。役人の積算の6〜7割でいいものはできません。100%標準なら、それが標準にならなければ、いい品質ができません。市町村で低入札を設けていないところがありますが、私たちに賛同してくれる首長が増えました。過当競争で業者が減れば、市町村に税金が入らなくなります」
――公共事業は、まだ製品がない時点で買い取り価格を決めてしまう特殊なものです。
「予定価格は、会計法で言うと、出来上がったものをいくらで買いましょうというものですが、それを当てはめるには無理があります。積算イコール標準価格で、それより高くかかるものも多いというのが私の考えです」
――大手のメディアが応札の高止まりを批判しますが。
「積算以上に費用がかかるということは、実際やってみれば分かります。高止まりを非難されるのはおかしなものです。役人の予定価格じゃできない、不調・不落が多くなるのも当たり前です。アメリカでは、落札価格が積算よりも高くなることがあります。日本の構造を変えなければなりません」
――国はいいが、地方に積算のできる職員がいないという問題もある。
「その辺をどう助けるかです。発注者支援制度が品確法にあります。職員数が削減される一方、工夫して技術力を簡易に比較できるようにします。特に被災地の職員不足は深刻です」
――指名競争入札は、地方にこそ必要な制度です。自治体の首長なりが指名審査委員会で、その土地の顔の見える業者を指名するので手抜きはできない。経審を受けているので、企業の信用性も担保されている。
「指名競争は大いに活用すべきです。十分な評価をする人が、たくさんいることが大事です。会計法は一般競争入札が前提ですが、一品生産を横に置いておいて、いい会社が生き残るということが大事です。再三申しますが、安ければよいではダメ、公共事業の場合は特に品質に影響します。公共事業の積算をして、価格の範囲内ならばだれでもいいでは困ります」
――企業である以上、年間の売り上げ計画は当然立てる。しかし、受注調整は談合だといわれてしまう。
「公共工事では、過去の実績を評価し、経営計画を立てられるようにしなければなりません。市町村が入札契約制度に取り入れなければなりません。いい会社がいい仕事をできるよう、品確法を変えていく必要があります。地域に根差して頑張る建設業の育成をきめ細かくしていくのが、すべての発注者の責務です
――発注者の責務という点をもう少し詳しくお願いします。
「公共事業というものは、仕事をしたら利益が出せるという、入札契約制度にしなければなりません。今まで、4回低入札価格を上げましたが、もっと上げる必要があります。積算は、標準であり、上限ではなく、超えるものもあるということを認める仕組みにしなければなりません。働いている人たちが、働きがいを持って、元気に働ける、若い人が入ってこなければならない。そのために必要なのは、賃金の上昇です。若者がこれから一家を構え、家族を養っていくため、労務単価をさらに戻すようにします。経営計画が立てられる・先行きの見通しが立てられるようにしなければならないと思っています