昨年12月16日に行われた衆議院選挙で、自民党が3年3ヵ月ぶりに政権奪還を果たした。これまでの公共事業費削減政策から一転し、新政権の公約では国土強靭化や東日本大震災からの早期復興など、建設業界に関わる諸政策が盛り込まれている。自民党で国土交通省出身の佐藤のぶあき参議院議員は、東日本大震災発災直後から、政府に対してさまざまな問題点の改善を要請し続けてきた。震災から1年10ヵ月が経過し、被災地では復旧・復興工事が本格化している中、今後の防災・減災の在り方や地元を守る建設業の育成などを伺った。
(聞き手 小島義弘建設新聞社常務取締役編集長)
民間と公共の総合的な防災が必要
――自民党が掲げる政権公約として、国土強靭化や東日本大震災の早期復興など、われわれ建設業界に関わる諸施策も盛り込まれています。その実現に当たっての考えをお聞かせください。
国土強靭化とは、将来に発生が予想される南海卜ラフ大地震や首都直下型地震に対する事前防災と減災の考えに基づき、避難路新設や老朽化したインフラの更新を加速させていくものです。今後3年間で15兆円を集中投資するとともに、民間投資を最大限に活用して、10年聞で総額200兆円を投資する計画です。この事業の財源の確保をしっかりしていかなければならないと考えています。
――中央自動車道笹子トンネルの天井板落下事故が発生し、インフラの老朽化対策も喫緊の課題となっています。
防災・減災対策としても老朽化が進むインフラの維持管理の更新も急務です。これまでのように公共事業費を削りっぱなしでいいわけがありません。しかし、公共事業費だけを大幅に投資して防災・減災が可能かといったら、それは違います。民間と一緒になって防災・減災を進めていくべきです。例えば、民間ビルの耐震化や建替えなど、税の優遇措置をすることによって、民間企業などが資金を出しやすいように誘導するなどの施策も推進すべきです。民間と一緒になって複合的な防災・減災を進めていくことが大切です。今年は正念場ですね。強靭化元年の年ですよ。国民の財産と生命を守るために、民間も公共も一緒になって、ソフトとハードの両面から防災・減災を大至急進めていくべきです。
――東日本大震災から1年10ヵ月が過ぎようとしていますが、被災地からは復興が遅々として進んでいないとの声が挙がっています。
大地震と巨大津波、それに原発事故と、これだけ広範囲に被害が渡っていますから短期間の復興は難しいのは当然です。ただ、政権与党だった民主党の対応はまったく後手、後手でした。これは復興基本法の制定や復興庁の発足などを見ても明らかなことです。
――先生は震災後、どのような行動を取られていたのでしょうか。
私は、災害救助法が被災地本位で運用されるべきと考えていました。まず政府に対し、応急仮設住宅に「在来工法」の採用を認めさせました。応急仮設住宅はプレハブ工法が原則でしたが、プレハブメーカーの工場の多くが被災し資材の調達が困難で、すべてプレハブでつくるのは不可能でした。そこで、地場の中小企業が手掛ける在来工法であれば地元産の木材が使用でき、地元に根差した住宅ができると考え、国に認めてもらいました。
――次に動かれたのが、災害救助費の求償手続きの問題でしたね。
自分なりに「大急ぎでやるべきことは何だろう」といろいろと考え整理した結果、一番大事なことは、政府が「救助に関する予算はすべて国が面倒を見る」というメッセージを出すことだと思いました。現行の法律を見ると全然そうなっていない。ほとんど知られていないことですが、自衛隊が被災地に持っていく食料や医薬品などの救援物資は、誰が負担すると思いますか?国は救助費の8〜9割を補助しますが、実は残りの約2割は出動要請を出した県が負担するのです。自衛隊だけではありません。避難者にしても、例えば宮城県の被災者が山形県に避難したら、山形県での仮設住宅整備費や食糧費は山形県知事が宮城県知事に請求することになっています。このようなことは請求しづらいし、避難民を出した側も非常時なのに、その手続きをしていられるわけがありません。だからこそ円滑な救助のためには、「国がすべて負担するというメッセージをすぐに出すべきだ」と私は訴え続けたのです。ところが実際に国がすべてを負担すると閣議決定されたのは、震災から7ヵ月経った10月になってからでした。
――被災地に足を運び、多くの被災者の声に耳を傾けるという現場主義を大切にする政治姿勢が生かされたわけですね。
私がフロジェクトに加わり、震災後に開催された国会へ提出された震災関連法案が12本となっています。「東日本大震災復興再生基本法案」のように、政府が野党である自民党に便乗する形で成立した重要法案も少なくありません。私自身、これほど幅広い分野の法案づくりに追いまくられたのは初めての経験でした。
建設業者の育成は発注者の役割
――今回の震災では、自分たちも被災しながらも寝食を忘れて人命救助・復旧活動に尽力した建設業者が多くいました。
私も震災後、現地に入りましたが、身内を亡くされた方や自宅を流され避難所から通っている建設業の方々が、がれき撤去や道路啓開作業に当たっている姿を目の当たりにして頭が下がる思いでした。津波で被害を受けた沿岸部への救援ルート確保のための「くしの歯作戦」でも、自衛隊や警察、消防の前に、建設業者が重機を動かしていましたね。
――発災があと5年遅れていれば、災害復旧に当たる地元業者がいない災害対策空白地帯が生まれてしまっていたというくらい疲弊しています。経営に優れ、優秀な技術力を持った地元業者を育成していくための、新たな入札契約制度の整備はどうなっているのでしょうか。
普段通りに一般競争入札で発注したら、その間にモノの値段は上がってしまいます。その悪循環を断ち切るために、今年も随意契約や指名競争入札を活用していかなければなりません。「入札価格は安いほどいい」という単純なことではないことは、だんだん浸透してきています。建設産業の育成というのも発注者の大事な投割ですから、その責任をしっかりと自覚させていかなくてはいけません。大事なことは工夫した仕事をすれば利益が出せるような仕組みを作ることと、建設業を魅力あふれる産業にしていくことです。技能労働者の所得と地位を上げていかなければなりません。
――復興に向けては資材・労働力不足と、値上がりが止まりません。宿舎対策も進んできてはいますが決め手にはなっていない状況です。
労務単価見直しは年2回などと悠長なことを言っていないで、3ヵ月単位で見直すように働きかけました。でも値上がりしたら3ヵ月と言わず、すぐにでも再調査するようにさせました。資材の値上がりと供給量不足については、供給制約が出ているという話も出ていますので、協議会を設置して現場で知恵を出し合ってやりましょうということになっています。それでもという部分は、私どもも何らかの対策を練なければなりません。
防災立国に必要な5つの強化
――最後に、先生が提唱している防災による新しい国づくりについてお聞かせください。災害に強い国づくりに向けて5つを強くしていこうというものです。
まず1つ目は「絆」ですね。これは2つの意味がありまして、村落のコミュニティーが薄くなってきていますからお互い助け合いの精神を持つことと、地方分散型国土の推進です。今回の震災でも日本海側からの救援がカギを握りましたので、全国で多軸型・分散型の国土をつくり、お互いをバックアップし合う体制を整備しなければなりません。2つ目は「インフラの整備」です。それも多重防護を強化することで、災害に対しハードとソフトの対策を総動員して対処する考え方が必要です。ビルの耐震化や通信技術の強化など、民間が手掛ける分も合わせた広い意味でのインフラを整備すべきです。3つ目は「ふるさと」です。安全で美しいふるさとを子や孫の世代に残す。こうしたふるさとづくりには地元建設業者が不可欠です。災害対応や除雪などの機動力と組織力を持つ地元建設会社にお願いできる仕組みを整備していきたい。4つ目は「リダーシップ」です。既存の法律・制度・運用の枠によらず、問題を解決できる能力がなければ災害に対応できません。5つ目は「制度」です。4つ目で述べたように、災害が起きて既存の制度運用で対応できないのであれば、それを乗り越えた事例を、後世に制度として残さなければなりません。そうでないとまた一から手さぐり対応しなければなりません。
――ありがとうございました。
〈プ口フィール〉
1947年新潟県生まれ。72年に京都大学大学院卒業後、建設省入省。その後、国土交通省道路局長、事務次官を経て2007年から参議院議員に。著書に『「五強」防災立国論』。65歳。