昨年の東北大震災のあと公共投資に対する風向きが変化する兆しを見せている。だが、建設業を取り巻く環境は依然として厳しい。そこで建設業界の代表として国会で活躍している佐藤信秋参院議員に公共事業予算やダンピング対策、国土強靭化(きょうじんか)へ向けた動きなど業界の関心の高い諸課題について聞いた(聞き手は豊田剛全中建副会長・広報委員長)。
――建設投資、公共投資ともピーク時に比べ半減している。今年度の補正予算、平成25年度の公共事業予算に対してどのように考えるか
佐藤 今年度も大型の補正予算編成が必要と考えている。昨年は東日本大震災、水害、今年も豪雪、水害、桜島の噴火など災害が多発した。そこで我々が主張しているのは一時的なことではなく、中長期的にも日本を災害に強い国土にしないといけないということで、国土強靭化基本法案を国会へ提出した。まだ審議に入っていないが、皆がその考え方に賛成している。
しかし、公共投資が削減されたままで、今後10年の間に想定される大震災に備える防災・減災への対応ができるのか疑問であること、大震災の被災地だけでなく、その他の被災地でも早期の復旧・復興を待っていること、デフレ経済の是正が求められていること、さらに、これまで対策が手薄だった民間建築物の耐震化に向けて政策誘導、財政出動が必要であるといった事情を考慮すると、大型の補正予算の編成は不可欠と考えている。
また、21年の政権交代時の政府投資は7.1兆円だったが、民主党政権になって予算が削減され、現在は4.6兆円まで落ち込んだ。25年度の公共事業予算は、政権交代時の水準まで回復させるべきというのが私の主張だ。
指名入札、随契をもっと活用すべき
調査基準価格の引き上げが必要
――ダンピング受注の歯止めがかからない状態にある。「最低制限価格」「低入札調査基準価格」についてどのように考えているのか
佐藤 私が議員活動を始めて5年になるが、この間、20年、21年、23年と低入札調査基準価格を3回引き上げてもらった。その結果、20年当時、予定価格の76%程度だった調査基準価格は86%程度になった。今年も引き上げを要請したところ「5年間で4回も引き上げるのですか」といわれたが、現在の基準価格は、建設業がいい仕事をして健全に経営を維持できる基準価格だとは考えていない。さらに改善すべきと思っている。
基準価格を90%前後で運用する自治体が10団体、86%前後を採用しているのが20団体と徐々に引き上げているが、市町村となると、まだまだ安ければ安いほどよいという考えのところが残っている。
――ダンピング受注発生の要因として予定価格の上限拘束制の問題もあると思うが
佐藤 日本の積算体系と契約全体の構造はいびつだと思う。発注者の設定する予定価格は標準価格で、それより低いものは採用するが、入札者全員が標準価格以上の価格でないと仕事ができないとしたとき、それを認めないというのはおかしい。標準価格より高い価格も認めるべきで、標準価格以下の価格でなければ採用しないというのは値引きを強要しているようなものだ。中身は精査するが、全員が標準価格を超えたら、それを採用するというのが世界の標準価格の考え方である。
――災害復旧工事でも、競争性を確保するということで一般競争入札を採用し、それがダンピングの要因の一つになっている
佐藤 昨年3月、国会の審議を受けて、国交省は指名入札制の採用を地方整備局へ通知し、弾力的に運用した。互いに信頼し合っている人たちが集まって、責任をもっていい仕事をすることが大切なので、指名入札、随時契約はもっと活用すべきだ。
防災・減災対策は欠かせない
国土強靭化は世界に発するメッセージ
――国土強靭化法は10年間で200億円の投資を打ち出しているが、その裏付けとなる財源はそのように考えるか
佐藤 15、16年前に比べ日本の政府投資、建設投資は半減したが、この間に世界で政府投資を削減している国はない。英国は3倍、米国は2倍に増やしている。
削減は、日本のGDPに対する政府投資の比率が外国に比べ高すぎるという理由で行われたが、その結果、外国とほぼ同水準まで落ち込んだ。しかし、日本は災害が多く、その復旧・復興に1%程度の費用がかかるので、実質的な政府投資のレベルは外国より下がっているのが現状だ。
そうした中での20兆円の政府投資の増大は、正当性を持つと思うが、国土の強靭化は政府投資の上積みだけを考えているわけではない。
国土の強靭化には、橋や堤防の整備・強化だけでなく、昭和56年以前の耐震基準で建設された民間建築物が多く残っているのでその耐震化、再生エネルギーの開発、災害時でも途絶しない情報基盤整備が必要であり、それらは民間に担ってもらう。国はそのための政策誘導、財政出動を行うという役割分担も考えている。政府投資と民間の投資を合わせて10年間に200兆円という考え方だ。
首都直下地震は、1000年間で4回記録されている。4回とも三陸地震の前後10年以内に発生している。東海・南海・東南海の3連動地震も三陸地震の10〜20年以内に3回起きている。この10〜20年以内に大震災が確実に起きると思わざる得ない。こうした大地震に備え、防災・減災に日本がどう取り組むのか世界が注目している。国土の強靭化は、日本が世界に発するメッセージだ。
それと雨の降り方も異常になってきた。日本はこの10年間の平均降水量は1600ミリから1500ミリに100ミリ減少しているが、降水量、降水地域に極端なばらつきが生じ、100年に1度といわれる洪水が至る所で発生している。これに対応するには、利水と治水を同時に考える必要がある。そのためには脱ダムどころか、ダムの活用を考えないといけない。この面での防災・減災対策も欠かせない課題となった。
地元建設業のこれ以上の疲弊は進めない
――災害の復旧・復興に中小建設業も大いに貢献しているが、なかなか評価されない
佐藤 災害が発生するたびに国会で地元の中小建設業は頑張っていると発言してきた。災害時には建設業は先頭に立って救助・復旧作業にあたって、その後に自衛隊、警察、消防などが活動しているが、建設業の姿はほとんど報道されない。
建設会社の制服では、会社の宣伝になるとしてマスコミは取り上げないようなので、建設業ということが識別できる制服を着用することが今後必要かもしれない。せめてベストの着用を考えた方がいいと思う。
――最後に中小建設業へのアドバイスを
佐藤 東京を含め日本の隅々まで、いざというときの災害対応、地域産業と雇用を支えてきたのは地元の建設業だ。これが危機に瀕して、除雪や災害対応ができなくなりつつある。民間建築物の耐震化も地元建設業が担っている。地元建設業の疲弊をこれ以上進めることはできないので、いろんな対応を考えないといけないと思っている。
――長時間有難うございました。先生には建設業界の発展のために、引き続き頑張っていただきたいと思います